昨年6月、空き家等対策の推進に関する特別措置法の改正法が成立し、いよいよ空き家問題について、本格的な対策がスタートしました。今までは、老朽化している住宅でも、建物が建ってさえいれば、固定資産税が6分の1や3分の1など、大きく減免されていましたが、これからはこの適用についても、厳しく判定される事になります。
一方で、空き家問題を解決するための政策として、税制面や助成金の制度など、今までにない規模で拡充が図られています。 これら施策を上手に活用することが今後の土地活用において、大きなポイントとなるでしょう。
今回は、この措置法の改正について紹介し、その対策方法について検討していきたいと思います。
勧告を受けた特定空家等は固定資産税の住宅用地特例が使えなくなる
まず、この制度で気になる所は、固定資産税の住宅用地特例(6分の1や3分の1への減免)から除外されるタイミングです。老朽化している住宅などが「特定空家等」に指定されると住宅用地特例の適用から外されます。具体的にどのタイミングで適用外になるのか、以下は「特定空家等」に指定されてから空家が解体されるステップとなりますので、どのタイミングで適用外になるのか、皆さんも一緒に考えてみましょう。
- 市区町村より「特定空家等」に指定され、除却、修繕、立木竹の伐採その他の必要な措置をとるよう、助言又は指導が行われる
- それでも改善されないと認めるとき、勧告が行われる
- 勧告に係る措置を取らなかった場合、命令が下される
- 命令の履行がない、十分でない、完了見込みがないとき、代執行がおこなわれ、取り壊しの費用等が所有者に請求される
正解は、一連の流れの中の2.それでも改善されないと認めるとき、勧告が行われるタイミングで固定資産税が更地並み課税となります。つまり、1.市区町村より「特定空家等」に指定され、除却、修繕、立木竹の伐採その他の必要な措置をとるよう、助言又は指導が行われるタイミングで改善を図る必要があるわけです。
また、「特定空家等」の定義ですが
- 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適正な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
上記状態に該当する場合、「特定空家等」と認定されます。認定の条件は、余程の場合が想定されますが、雑草や立木が伸び放題の状態もあてはまりますので、遠隔地の空家などは、管理に十分な配慮が必要となります。
「さすがにここまで放置している土地はないですよ。この空家の措置法は私には関係ないなぁ..」と思われる方も多いと思います。もっともですが、このように市区町村が強制的に介入できる法律が整備されたので、このような空家にならないための税制優遇や土地活用にかかる助成金なども整備されました。これら優遇措置は、特定空家等に該当しない土地建物にも適用できるケースがありますので、ここからは場面に応じた制度を紹介したいと思います。
相続で引き継いだ空家を売却した場合の譲渡所得税優遇
相続で実家を引き継いだけれど、親の入院期間も長かったため、老朽化し、そのままではとても住める状態にはない.. ここから職場に通うにも2時間以上かかるため、自分が住むのもなかなか難しい状況だ… これは現在、私の家族も直面している問題です。
このような不動産を売却した場合、居住用の3,000万円控除と同じような、譲渡利益から3,000万円を控除できる制度が整備されています。
【被相続人の居住用財産空き家を売ったときの特例】
被相続人の居住用家屋、その敷地を令和9年12月31日までに売却し、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円を控除する事ができます。
<一定の要件>
- 相続開始の直前において被相続人の居住用家屋で、次の3つの要件すべてに当てはまるもの
- 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと
- 相続開始の直前において被相続人以外に居住していた人がいなかったこと
上記の要件をみますと、マンションは対象外、同居していた人がいない被相続人独居の家であることが要件となっています。
- 相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
- 売買代金が1億円以下であること。
- その他、細かい要件があるため、実行時には必ず税理士等の専門家にご相談下さい。
この3,000万控除を実際に適用するにあたり、私が実務で直面した一番の問題は、この売却する建物が、新耐震基準を満たしている必要がある事です。対象要件が昭和56年5月以前の建物としながら、昭和56年6月以降の新耐震基準を満たしていなければならないとは、矛盾しているように思われますが、購入後に耐震補強をした建物でないと適用はできないという問題があるのです。これは今回の空家等対策推進特別措置法の趣旨に照らし、安全な居住環境を実現することを前提としているため、その後利用される住宅にこのような要件が定められてしまったのです。今年の確定申告時期に昨年このような実家の売却の相談を受けましたが、すべての案件で耐震基準を満たす事ができず、この3,000万円控除が適用できなかった事が大変残念でした。
では、どうしたら適用できるのか?それは、建物を解体し、更地の状態で売却することです。ご自宅の敷地に供されていた土地であれば、建物が無くとも3,000万円控除は適用できます。建物を業者に解体してもらうことを前提に、現状で売却するのではなく、解体を済ませた後、速やかに売却を進められればこの3,000万円控除の適用が可能となるのです。
注意点は、建物をあまり早く解体してしまうと、固定資産税も更地並みの課税となってしまうため、売却の話がまとまり、引き渡しの時期も決まった段階で、建物の解体を実行して頂くことをお勧めします。また、解体してから売却まで、例えば駐車場で貸し出してしまうと要件を満たさなくなりますので、ご注意ください。
「東京ゼロエミ住宅」の助成金について
特定空家に該当してしまい、住宅が建っていても固定資産税が6倍に増えてしまっては、とても維持することはできません。そうなると、売却をするか?建て替えを検討するか?選択肢は限られてきます。建て替えを検討し、住宅を建築する場合、東京都では「ゼロエミ住宅」を新築した建築主に対し、その費用の一部を助成する事業が実施されています。こちらは1戸あたり、集合住宅で最大170万円・戸建住宅で最大210万円と助成額も大きいので、ぜひご検討頂ければと思います。また、10月よりこの助成額が更に増額されます。
概要は以下の通りです。
【助成対象住宅】
都内の新築住宅(戸建住宅・集合住宅等)
床面積の合計が2,000平方メートル未満が対象
「東京ゼロエミ住宅」とは?
「東京ゼロエミ※住宅」とは、高い断熱性能の断熱材や窓を用いたり、省エネ性能の高い照明やエアコンなどを取り入れた、人にも地球環境にもやさしい都独自の住宅です。東京ゼロエミ住宅での暮らしは、省エネに加えて、高断熱化によって快適な室温が維持され、部屋間の温度差も小さくなり、ヒートショックの抑制にもつながります。
※「ゼロエミ」とは「ゼロエミッション(ZERO EMISSION)」の略
東京ゼロエミ住宅の概要図
「東京ゼロエミ住宅」でポイントとなる、断熱と設備についてまとめた概念図です。
※環境省のホームページより引用
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/home/tokyo_zeroemission_house/gaiyou
各ハウスメーカーさんでは、この企画に適用する戸建住宅・集合住宅を準備されておりますので、ぜひ一度ご相談いただければと思います。
セカンドハウスとしての利用を検討する
建て替えた住宅を賃貸として有効活用することも得策ですが、固定資産税の6分の1等への減免を生かすためには、「セカンドハウス」として利用することも有効です。建物をただ建築しただけでは固定資産税は減免されません。建物を取得後、60日以内に所在地の都道府県税事務所へセカンドハウスとしての申請を行います。別荘とは違うことに注意です。セカンドハウスの要件は以下の通りです。
- 居住用の家屋であること
- 特定の人の利用であること
- 年間を通じて毎月1泊2日以上の利用があること
別荘のように、夏の季節だけ利用するのでは対象となりません。
ただし、別途個人住民税の均等割り(年間5千円程度)は課税されることになります。
今後、空家が増え続けることが予測されるなかで、これからも上記のような支援策と、反対の罰則規定はより強化されていくことでしょう。新しい情報があればまた紹介していきたいと思います。
専門家による監修
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監修:西村 敦正
千葉県出身、専修大学卒業後、公認会計士山田淳一郎事務所に入所。税理士資格取得後、船井財産コンサルタンツに転職し資産税専門税理士として活躍。2004年に税理士法人BAMCを設立し代表税理士に就任。その後事業承継案件1000件以上を手掛けるなどの実績を誇る。2014年に開通した東京都市計画道路環状2号線(マッカーサー道路)にかかる事業用地の資産活用コンサルティングや秋葉原再開発に伴うCRE戦略を手掛けるなどの実績を併せ持つ実務家でもある。
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