相続税の支払いに困っていませんか?
先祖代々、守り続けてきたこの不動産。しかし毎年7月に公表される土地の路線価も上がり続け、親父に万が一があったら、とても手元の資金で相続税を支払うことは難しい…
昨年亡くなった◯◯さんの所も、駐車場として貸していたあの土地を売却し、相続税を支払ったらしい。自分の代で不動産を売却するのは痛恨の極みだが、相続税の支払いのためであれば、大義名分もたつので諦めるしかないのか…相続税の支払いに悩んでおられる方々が沢山おられ、毎日のように私のもとにも相談に来られます。
相続税は他の税金に比べ、とても特殊な税金です。所得税も法人税も消費税も事業税も、実際のお金の実入りがあったものに対して課税されるため、納税までの期間、税金相当をとっておけば、基本的には支払える税金ですが、相続税はそこに財産が存在していれば、その財産に収入が有るか無いか問わず課税されます。先祖代々守ってきた土地も金額に換算し、税金が課税されるため、お金がない所にも多額の支払いが求められます。固定資産税のように数十万円や数百万円ならまだ支払えても、何千万円、何億円となれば到底手元の資金で支払うことは困難です。
売ればお金になるんだから、当然財産として課税しますよ!そんな発想のため、支払うためにはやはりお金に変えなければならない、そんな風に追い込まれて、土地を手放さなければならないのも当然の成行きと言えましょう。そのように、相続のたびに土地を切売りしていたら、4代目にはほとんど財産も残らないでしょう。
最近、私がお手伝いしたいくつかの相続税申告で「◯◯さんの所は駅前にこれだけ土地を持っていて、さぞかし高額な相続税を支払ったはずなのに、全く土地を売却せずに相続を乗り切ったらしい..とても信じられない..いったいどんな方法で相続税を乗り切ったのだろう..」と、地主さん仲間で噂になるような、会心の手続きができた事例がいくつかありました。今回はそのような、土地を減らさない相続の手続きとそのポイントを紹介したいと思います。
相続税を分割(延納)で支払う
相続税はお金のないところにも課税されるため、他の税金にはない、長期での分割払い(延納)が可能です。相続財産の資産構成にもよりますが、最長20年間の支払いが可能です。しかも現在の適用金利は0.4%(相続財産のうち、不動産割合が75%以上のケース。変動金利で毎年の金利見直しがありますが、銀行の短期貸出約定平均金利をベースにしているため、長期金利が上昇している昨今の金利変動の影響も受けず、ここ数年は変わっていません。)と、金融機関で納税資金を調達するより遥かに低い金利での適用が可能です。
前述した申告事例でも、当初は金融機関の勧めで収益性の高い都心の駐車場を売却し、相続税を支払う予定でしたが、相続人の方から「一番収益性の高い土地の売却を金融機関から勧められていますが、本当にこの土地を手放さなければ、相続税は払えないのでしょうか?」と相談があったため、私の方で土地の収益性を分析して、相続税の延納のスケジュールを検証したところ、一部手元の資金で納税が必要となるものの、この駐車場の収入で相続税が払えることがわかりました。 延納中は駐車場収入の多くを相続税に充てることになりますが、これからも資産価値の上昇が見込まれる価値の高い不動産を残せたことは、本当によかったと思います。このように、資産を守りながら相続税を支払う方法もあるのです。
ただ、延納を実現するためには、いくつか大きなハードルがあります。その中で最も重要な二つの要件は、以下の通りです。
- 金銭で納付することが困難な金額の範囲内であること
- 延納税額に相当する担保を提供すること
(延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合は担保を提供する必要はありません。)
この2点をクリアすることが、なかなか難しいのです。
金銭で納付することが困難な金額の範囲内とは?
延納は、金銭一括で相続税を払うことが困難な人が、困難な金額の範囲内で分割払いが認められる制度です。相続で多額の現金を相続したり、ご自身で貯めた預金が多額にあるのであれば、まずはそこから相続税を払いなさい。という事になってしまいます。では具体的に、どんな基準で納付困難な金額が算定されるのでしょうか。
1. 納付することが出来るとされる金額
相続した現金預貯金+有価証券などの金融資産−相続債務(※)+納税者固有の金融資産−当面の生活費
※相続債務:遺産を相続する人が引き継ぐべき債務のことを指します。これには故人が生前に負った借金や、税金(所得税や固定資産税などの未納分)、葬儀費用、医療費など、故人が生前に発生させた負債が含まれます。
ここで算出した金額がプラスになる場合には、その金額は金銭納付が困難な金額とは認められず、申告期限までに納税にあてることができる金額とみなされます。ここでのポイントは、相続債務は全額マイナスにできるという点です。例えば、被相続人名義のマンションの借入金2億円があれば、全額を預貯金からマイナスできるため、被相続人が不動産投資で大きな借入金がある場合などには、手元の資金を債務が上回る限り、相続税は全額延納が可能となります。この場合、1億円の預金があっても、1億円を手元に残したまま延納が可能となるのです。このように有効な不動産投資は、預貯金を守るための対策にも繋がるのです。
一方で、相続人の借入金は、生活費や事業費としてしかマイナスができないため、例え3億円の借入をしていても、最大3ヶ月分(事業用借入なら1ヶ月分)の返済額しか手元に残せません。また生活費として手元に残してよいお金は月額10万円、家族分は一人あたり月額4万5千円とわずかなため、延納を適用するためには、被相続人の借入金の存在が重要になるのです。
2. 財産の分け方次第で延納が可能となります
延納が認められるかは、相続人単位で判断されます。例えば、被相続人のお金が1億円あった場合、それをすべて配偶者が取得すれば、その他の相続人は預貯金を引き継がないため、納税資金がなく、延納を選択できるというストーリーが描きやすくなります。
3. 延納税額に相当する担保を提供する
延納を認めてもらうには、その延納税額に見合う担保を提供しなければなりません。通常は土地を担保に提供するケースがほとんどです。この土地は他の抵当権が付いている土地では認められません。また、被相続人の土地を担保に提供する場合には、相続登記が完了しているものでないと受付けてもらえません。この担保提供までの期間は、申告期限から最大6ヶ月までとなっています。
他の書物などでは、被相続人の財産が未分割の場合には延納は認められないと書かれていますが、正確には未分割の申告でも延納は認められますが、提供する担保物件の相続登記が完了しないため、結果的に許可をもらえる所までたどり着けないケースが多いためです。未分割でも各人が既に所有されている土地を担保に提供できれば認められますし、被相続人の土地が未分割でも法定相続分の登記は可能なため、法定相続人全員がその土地を延納の担保にすることに同意できれば、延納の許可を受けることは可能です。
4. 延納は納税までの延滞税や利子税を軽減する手段としても活用できる
遺産分割の話し合いが申告期限である相続開始から10ヶ月後に間に合わない場合には、小規模宅地の特例や配偶者の税額軽減など、相続税を大きく軽減できる規定が適用できないため、一旦多額の相続税を納税する必要が出てきます。そのような多額の税金は不動産を売却しなければ払えませんが、遺産分割の話し合いも出来ていない状況では売却も出来ず、このままでは延滞の状況に追い込まれてしまいます。
このようなときに、申告期限までに相続税申告書と合わせ延納申請を提出すれば、加算税の課税が避けられるとともに、延滞の状態は回避でき、金銭納付困難事由が認められたタイミングで、利子税が最大0.9%※担保の提供も完了し、正式に延納が認められれば利子税が最大0.4%※となり、大きく金利負担を軽減できます。
(※不動産や金融資産の資産構成により定められている利子税の負担は変わります)
延納申請が正式に通れば、次の納税期限は1年後。それまでに分割協議を成立させ、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用した更正の請求の申告ができれば、支払う相続税も大幅に軽減され、その支払いが完了したときまでの利子税は上記の金利負担で完結させることも可能となるのです。
このように延納は、納税資金対策や分割の対策にも有効に活用できるため、ぜひご検討いただければと思います。
今回の記事では、相続で引き継いだ不動産を売らずに、資金不足の問題を解決する方法を紹介しました。実際に対策を進める場合には、事前の準備に時間を要しますので、早めに専門家へ相談することをお勧めします。
専門家による監修
本ガイドは、記事の内容に関する広範な知識と実務経験を持つ専門家によって監修されています。専門家による監修は、本ガイドの内容の正確性と信頼性を保証するものであり、読者が安心して情報を活用できるようにするためのものです。監修を担当された専門家の情報は以下の通りです。ご興味がある方は、さらなる情報や個別のご相談について、直接お問い合わせいただければと思います。
監修:西村 敦正
千葉県出身、専修大学卒業後、公認会計士山田淳一郎事務所に入所。税理士資格取得後、船井財産コンサルタンツに転職し資産税専門税理士として活躍。2004年に税理士法人BAMCを設立し代表税理士に就任。その後事業承継案件1000件以上を手掛けるなどの実績を誇る。2014年に開通した東京都市計画道路環状2号線(マッカーサー道路)にかかる事業用地の資産活用コンサルティングや秋葉原再開発に伴うCRE戦略を手掛けるなどの実績を併せ持つ実務家でもある。
※当記事は税理士などの専門家の監修の下、細心の注意を払って作成しておりますが、万が一内容に不備があり、読者に不利益や損害が生じた場合でも、㈱BAMC associatesは責任を負いかねますのでご了承ください。記事に関するご指摘は、大変恐縮ですが、当事務所の「お問い合わせフォーム」からご連絡ください。ただし、記事に関するご質問は回答出来ませんので、あらかじめご理解のほどお願い申し上げます。