資金繰りとは
資金繰りとは、企業が日々の営業活動を行うために必要な資金を確保し、その資金を適切に管理・運用することを指します。具体的には、売上代金の回収や支払期日の管理、銀行借入や投資などを通じて、企業の財務状況を健全に保つための取り組みです。資金繰りを正しく理解することは、企業の成長や安定した経営を実現するために重要です。
なぜ資金繰りが必要なのか
日々の業務を円滑に進めるためには、資金繰りにて十分な資金を確保することが必要です。例えば、仕入れや給与、賃貸料などの定期的な支払いが滞ると、営業活動に支障をきたします。また、取引先や金融機関との信頼関係を維持するためにも、期限通りの支払いが重要です。資金繰りが悪化すると信用が低下し、将来的な取引や融資の獲得が難しくなります。さらに、新規事業への投資や市場拡大など、成長機会を逃さないためにも資金が必要です。健全な資金繰りを行うことで、これらの成長機会を逃さず、挑戦することができます。また近年では、地震のような災害やコロナなどで経済環境が激変するなど、予想が困難な外的要因にて突発的な出費が発生することもあるため、不足の事態に備えた資金の確保も重要です。資金繰りが安定していれば、こうしたリスクに対処することができます。
「資金ショート」とは
企業が必要な資金を確保できず、支払い義務を果たせない状況を資金ショートと言います。収入が支出を下回り、手元の現金が不足することで、仕入先や従業員への支払いが遅れ、信用が低下し、従業員の士気も下がる可能性があります。この状況が続くと、日常業務が困難になり、最悪の場合は事業の一部または全体を停止せざるを得なくなります。また、資金ショートに陥ると、金融機関からの追加融資や新たな投資家の獲得が難しくなり、最も深刻な影響として、倒産のリスクが高まります。資金が枯渇すると債務不履行に陥り、最終的には法的手続きを経て事業を停止する可能性があります。
★税理士からのワンポイントアドバイス
会計事務所の担当者に資金繰りのアドバイスを求めると、あまり適切な回答が得られない場合があります。会計事務所は財務会計のプロであり、資金繰りのプロではないからです。資金繰りを改善したい場合は、資金繰りに精通した専門の会計事務所、もしくはコンサルタントにセカンドオピニオンとして見てもらうことが大切です。
資金と利益の違い
資金とは、企業が日常業務にて使える現金や預金のことで、仕入れや給与の支払いなどに使われます。一方、利益とは、収益から費用を差し引いた後に残る金額で、企業の収益性を示します。資金と利益は関連していますが、同じタイミングで増減しないこともあります。例えば、利益が出ても売掛金の回収が遅れれば資金不足になりますし、大きな投資は一時的に資金を減らしますが、将来的には利益を生むことがあります。
資金繰りとキャッシュフローの違い
キャッシュフローは一定期間における企業全体の現金の流れを表します。営業活動、投資活動、財務活動の3つの区分に分かれ、長期的な視点で企業の財務状況を把握します。一方、資金繰りは、日常業務などの短期的な資金の出入りに焦点を当てています 。要するに、資金繰りは短期的な資金管理、キャッシュフローは長期的な資金の流れを分析するためのものです。
資金繰りと資金調達の違い
資金調達は、事業拡大や設備投資、新規プロジェクトのために外部から資金を集めることです。これは、株式発行や借入などを通じて長期的な資金を確保し、企業の成長を支えるためのプロセスです。資金繰りが日常運営を安定させるのに対し、資金調達は企業の将来的な成長を推進する手段となります。
資金繰りが苦しくなる原因
資金繰りの悪化は日常業務などの短期的な資金の出入りに影響を及ぼすため、悪化したことに気づいたときには取り返しがつかない可能性もあります。ここでは、資金繰りが悪化する原因をいくつか紹介しますので、日頃から注視しておきましょう。
売上の減少:
売上が予想以上に減少すると、収入が減り、支払いに充てる資金が不足する場合があります。市場環境の変化や競争激化、製品やサービスの需要低下などに気をつけましょう。
回収遅延:
売掛金の回収が遅れると、手元の資金が不足し、支払いが困難になります。取引先の倒産や支払い遅延、請求業務の不備などが回収遅延の原因となります。
過剰在庫:
過剰な在庫を抱えると、手元の現金が減り、資金繰りが悪化する可能性があります。
過剰な借入:
無計画に借入を行うと、返済の負担が増え、資金繰りが厳しくなります。特に短期借入が多い場合、返済期日に一度に多額の支払いが必要となり、資金不足に陥ることがあります。
支出の増加:
予想外の経費や投資が発生すると、支出が増加し、手元の資金が不足することになります。例えば、新規事業への投資や設備の修繕、法的な費用などが挙げられます。
経済環境の変動:
景気後退や市場の変動、為替レートの変動などが資金繰りに影響を与えます。
★税理士からのワンポイントアドバイス
資金繰りの悪化について具体的に問題点を発見することは可能ですが、問題点に対する改善策を実行できるかは経営者次第な部分が大きいです。まずはできることから早急に取り組むことをおすすめします。
資金繰りを改善する方法
資金繰りを改善するためには、以下のような具体的な対策を講じることが重要です。これらの方法を実践することで、健全な資金管理が可能です。
売掛金の早期回収:
売掛金の回収を早めることで、手元資金の確保が容易になります。請求書の早期発行や、取引条件の見直し、割引条件を提示することで、早期支払いを促せます。
支払い条件の交渉:
仕入先や取引先との信頼関係を基に、支払い条件の延長を交渉することで、資金の流出を抑えることができます。
在庫管理の徹底:
過剰在庫を減らすことで、動かせない資産(資金)を減らせます。販売データを分析し、需要予測に基づいた発注を行うことが重要です。
コスト削減:
不必要な経費を削減し、支出を抑えることで資金繰りが改善します。固定費や変動費の見直し、エネルギーコストや業務委託費用の削減などが効果的です。
資金調達の多様化:
銀行借入以外にも、クラウドファンディングやエンジェル投資家からの資金調達など、様々な方法で資金調達を行います。これにより、資金源を分散させ、資金繰りが悪化するリスクを減らせます。
キャッシュフロー予測の強化:
定期的にキャッシュフロー予測を行い、資金の出入りを把握することが重要です。将来の資金需要を予測し、事前に対策を講じることで、資金繰りの改善に役立ちます。
金融機関との連携強化:
金融機関と密に連携し、資金繰りの状況を共有することで、適切な融資を受けやすくなります。定期的な情報提供や相談を行い、信頼関係を構築しましょう。
資金繰り表で管理すべき項目
お客様からよく受ける質問の1つに「資金繰りで抑えるべきポイント、すなわち項目(指標)はないか」と聞かれます。以下項目は資金繰り表で最低限抑えるべき項目となります。
現金および預金残高:
- 月初と月末の現金および預金残高
収入項目:
- 売上金回収:現金収入としての売上金の回収額
- その他収入:補助金や助成金、預金利息、資産売却による収入など
支出項目:
- 仕入代金:仕入れにかかる費用
- 従業員給与:給与の支払い額
- 固定費:賃借料、光熱費、税金などの定期的な支出
- 借入金返済:借入金の返済額
- 設備投資:設備にかかる支出
キャッシュフロー予測:
- 今後数か月間の予測収入および予測支出
資金繰り表を定期的に更新し、実績と予測を比較することで、資金繰りの現状を把握しやすくなります。これにより、予測と実績の差異を分析し、必要な改善策を講じることが可能になります。また、資金繰り表を活用することで、金融機関との融資交渉や経営判断の資料としても役立ちます。
資金繰りが悪化すると黒字倒産も
企業が黒字でも資金繰りが悪化すると「黒字倒産」が起こります。これは、会計上は利益が出ているのに現金が不足して支払いができなくなる状況です。主な原因は、売掛金の回収遅延、過剰在庫、短期借入金の返済負担、急激な支出増加、そして利益とキャッシュフローの乖離です。
これを防ぐためには、売掛金の管理強化、在庫管理の徹底、資金繰り表の活用、多様な資金調達手段の確保、キャッシュフロー予測の強化が重要です。例えば、売掛金の回収状況を定期的に確認したり、在庫を適切に管理することで、資金不足のリスクを減らすことができます。
資金繰りの改善や管理は、企業の成功に直結する重要な要素です。ぜひこの記事の内容を参考にして、効果的な資金管理を実践してください。ご不明な点やご質問がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
専門家による監修
本ガイドは、記事の内容に関する広範な知識と実務経験を持つ専門家によって監修されています。専門家による監修は、本ガイドの内容の正確性と信頼性を保証するものであり、読者が安心して情報を活用できるようにするためのものです。監修を担当された専門家の情報は以下の通りです。ご興味がある方は、さらなる情報や個別のご相談について、直接お問い合わせいただければと思います。
監修:橋本 隆
茨城県日立市出身。札幌観光大使。中小零細企業の資金調達および事業承継に強い税理士。2003年税理士試験合格。千葉県内の税理士事務所勤務を経て2007年4月BAMCグループに参画。千葉支店長、札幌支店長を歴任。2020年4月税理士法人BAMC代表社員に就任。金融機関、生命保険会社からの依頼で年間100本のセミナーを行う人気講師でもある。
※当記事は税理士などの専門家の監修の下、細心の注意を払って作成しておりますが、万が一内容に不備があり、読者に不利益や損害が生じた場合でも、㈱BAMC associatesは責任を負いかねますのでご了承ください。記事に関するご指摘は、大変恐縮ですが、当事務所の「お問い合わせフォーム」からご連絡ください。ただし、記事に関するご質問は回答出来ませんので、あらかじめご理解のほどお願い申し上げます。