後継者候補がいない後継者選び
経営者の周りに後継者候補がいない場合、どのような選択肢があるのでしょうか。廃業、M&A、株式公開(IPO)などの選択肢があります。それぞれのメリットとデメリットについて詳しく解説します。
廃業:
廃業とは企業活動を停止し、会社を解散することです。廃業することで、経営者の負担が軽減され、事業を続けることによるストレスやリスクを回避できます。また、事業資産を売却して個人の資産として整理することが可能です。一方で、デメリットとしては、従業員の雇用が失われます。さらに、地域社会や取引先への影響も大きくなるため、廃業の決断には慎重な判断が求められます。
M&A:
他社に事業を譲渡することで、経営者が引退しながらも事業が継続できるのがM&Aです。従業員や取引先への影響についても、最小限に抑えられ、さらに新たな資本や経営リソースを取り入れることで、事業の成長も期待できます。また経営者は売却益を得られるので、引退後も財政的に安定します。唯一の懸念は、買収先との企業文化の違いが問題になる可能性があります。また、買収による組織変革に対する従業員の不安が高まり、モチベーション低下を招くことも懸念されます。
株式公開(IPO):
IPO(Initial Public Offering)とは、株式を公開して広く一般から資金を調達する方法です。会社の知名度や信用力を上げることで、後継者の候補者を幅広く探すことができます。一方で、デメリットとしては、株式公開に伴う手続きを行う膨大な手間やコストが発生し、経営の透明性が求められるため、管理運営コストが増加する点です。
★税理士からのワンポイントアドバイス
事業の承継/廃業の際には、決算書の貸借対照表の状況確認が非常に重要です。状況によっては引継ぎ時に、想定外の税負担が発生する場合があります。日頃の決算より資産や負債の内容について、しっかりと把握しておくことをオススメします。
経営者が自身の子以外を指名
後継者を誰にするかを選ぶ際には多くの注意点があります。ここでは経営者が自身の子を後継者に指名せず、親族や従業員、そして社外から後継者を指名する際の注意点について詳しく解説します。
1. 親族を指名する場合
血縁関係者による経営の引き継ぎは信頼性が高く、安心して後継者として指名できます。ただし、親族であっても経営能力が不足している可能性が高いため、後継者としての適性を厳格に評価することが大切です。経営能力の不足については、早期から後継者育成計画を立て、必要な教育や訓練を実施することで、解決することも可能です。
2. 従業員を指名する場合
社内の従業員を後継者として指名することは、企業文化や業務プロセスの理解がある点で有利です。ただし、今まで同じ立場にいた従業員が経営者になるため、他の従業員からの反発が起きないよう、引き継ぐ必要があります。また経営者には強烈なリーダーシップが求められます。後継者が逆境の中で、新たなリーダーになれるか、慎重に見極める必要があります。
3. 社外から指名する場合
外部の専門家(プロ経営者)を招聘して、後継者に指名することは、新たな視点やスキルを導入できるメリットがあります。ただし、社外からの候補者は企業の文化や業務内容を十分に理解していないため、事前に候補者の適性を慎重に評価し、企業に適した人物か判断する必要があります。また外部からの後継者には企業文化や業務プロセスを理解するための導入期間を必ず設けて、この期間中に既存の経営陣や従業員との連携を深める支援を行うことが大切です。
後継者が経営者自身の子の場合
中小企業において、後継者として経営者の子供を指名することは一般的ですが、実務面での慎重な計画と準備が必要です。以下に、後継者が経営者の子供である場合の具体的な注意点を解説します。
1. 引退した経営者に影響力が残っている
後継者に引き継いだ後も引退した経営者に従業員が相談する場合があります。相談する機会があまりにも多いと、引退した経営者が強い影響力を持ち続けてしまい、実態としては経営が引き継がれていないケースもございます。引退後は経営者が経営に干渉せず、新しい経営者に全権を委ねる勇気を持つことが必要です。
2. 社内の反発とモチベーション低下
後継者が子供である場合、他の従業員からの反発やモチベーションの低下が懸念されます。特に、長年勤めてきた従業員が「自分が後継者に適任」と感じている場合、後継者に不満を抱くことがあります。「親の七光り」「実力不足」などと不満が募り、最悪のケースとして会社を辞める場合があります。後継者が自身の能力を証明し、従業員から信頼を得ることが大切です。
★税理士からのワンポイントアドバイス
新しい社長のもとで、今後の経営状態がどのようになるのか、不安に感じるでしょう。承継後の損益計画や資金計画を事前に策定し、月次ベースで策定した計画との差を確認していくことが大切です。
後継者問題は簡単には答えを導き出すことができない問題です。後継者は必ずしも経営者自身の子を指名する必要はありません。会社の現状を顧みて、各選択肢のメリットとデメリットを理解し、自社に最適な選択肢を選ぶことが大切です。
専門家による監修
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監修:橋本 隆
茨城県日立市出身。札幌観光大使。中小零細企業の資金調達および事業承継に強い税理士。2003年税理士試験合格。千葉県内の税理士事務所勤務を経て2007年4月BAMCグループに参画。千葉支店長、札幌支店長を歴任。2020年4月税理士法人BAMC代表社員に就任。金融機関、生命保険会社からの依頼で年間100本のセミナーを行う人気講師でもある。
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