1. 過少資本税制とは?
過少資本税制は、企業が国外の親会社(持株基準によっては兄弟会社も含む)や関連企業から多額の借入を行い、税負担を不当に軽減しようとする行為を防ぐための制度です。この制度は、企業が自社の資金調達方法を選択する際に、資本金と借入金のバランスを健全に保つことを促進します。借入金に対して支払う利子等は、通常、企業の経費として計上され、課税対象所得から控除することができます(これを「損金算入」といいます)。これにより、企業は課税所得を減少させることが可能になります。しかし、過少資本税制では、特定の基準を超える借入金に対応する利子等の控除が制限され、税務上の不公平な軽減を防止します。
※ここでいう利子等には支払利子の他、一定の条件の基、金銭債務に係る償還差益等や債務の保証料なども含まれます。
2. 過少資本税制の適用条件と具体例
過少資本税制は、次の条件を満たすと適用されます。
(1)国外親会社からの借入金が自己資本の3倍を超える
企業が国外の親会社や関連企業から借りた金額が、国外支配株主等の資本持分の3倍を超える場合、その超過部分についての利子等は経費として認められません。この基準を超えるかどうかを確認するために、「平均負債残高」(企業が一年間にどのくらいの借金を抱えていたかを示す平均値)という指標を使用して適用条件を計算します。
(2)総負債残高が自己資本の3倍を超える
企業の総負債が自己資本の3倍を超える場合、(1)の要件を満たしているかを確認し、さらにこの(2)の要件も満たす場合には、超過部分の利子等は経費として認められません。
具体例での過少資本税制
例:シンガポールの親会社が日本の子会社に資金提供
日本の子会社の自己資本: 1億円(シンガポールの親会社からの持分割合100%)
親会社からの借入金 : 4億円
親会社への支払利子等 : 年間4000万円
その他の借入金: なし
<計算手順>
・平均負債残高の計算
親会社からの借入金が月ごとに変動しないと仮定すると、年間を通じて4億円の平均負債残高があります。
・資本の3倍との比較
資本の3倍: 1億円 × 3 = 3億円
超過部分: 4億円 – 3億円 = 1億円
超過部分に対応する支払利子等の損金不算入額
損金不算入額: 4000万円 × (1億円 / 4億円) = 1000万円
したがって、このケースでは1億円分の借入金に対する支払利子1000万円が損金不算入となります。
この例では、日本の子会社が国外支配株主(親会社)から4億円を借り入れていますが、自己資本1億円に対して3倍(3億円)を超える借入金(1億円)が存在するため、その超過部分に対応する利子等1000万円は損金として認められません。
★税理士からのワンポイントアドバイス
過少資本税制においては、内国法人の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係にある非居住者等に該当する場合には、例え内国法人の発行済株式等の50%以上を直接又は関節に保有する非居住者等や外国法人の持ち株基準を回避したとしても過少資本税制の対象になるケースがございますので、国外支配株主等の判定には慎重な対応が必要となります。
3. 過大支払利子税制との関連性
過少資本税制と過大支払利子税制は、いずれも企業が税負担を軽減するための利子支払を制限する制度です。過少資本税制は借入金と資本の比率に基づいて適用される一方で、過大支払利子税制は企業の所得に対する利子支払の割合を基準に適用されます。両制度が同時に適用される場合、損金不算入額が大きい方が優先されます。
★税理士からのワンポイントアドバイス
過少資本税制や過大利子税の適用により損金不算入が適用されたとしても支払利息の全額について原則として源泉所得税は課されることとなります。今回は外国法人の日本子会社についての内容でございますが、外国法人の日本支店においても似たようなものでPE帰属利子の損金算入制限規定というのもございます。
※外国法人の日本支店においては過少資本税制の適用はございません。
過少資本税制は、企業が健全な資本構成を維持し、税務上の不正を防止するための重要な制度です。企業は、自社の財務状況を適切に管理し、過度な借入による税負担の軽減を避けるための対策を講じることが求められます。専門家の助言を受けながら、最新の法改正や規制に対応した戦略を策定することが重要です。
監修:中島 龍
税理士法人BAMCの税理士。相続・事業承継対策、組織再編を得意分野としている。中小企業の経営者、富裕層を中心に顧問先は100件を超えており、豊富な実績は高い評価を得ている。銀行、保険会社、ハウスメーカーからの相談も多く、資産活用のプロ達が信頼を寄せる税理士である。
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